コラム

your strategy, your life

コラム

published 2023.11.10 / update 2023.11.10

戦略とはやらないことをきめること(小説のポイント解説)

 ユアスト 江村さん

ユアスト 江村さん

小説本編(【第12回】社長の決断)で、社長の吉川は、新刊書籍の発行ペースを落とすという苦渋の選択をしています。これはいたしかたないのでしょうか。

【第12話】社長の決断

戦略をたてて実行するということは、これまでの業務とは違うことを新しく始めることになります。

これまで全くやっていなかった事業を始めるのであればもちろんのこと、従来業務に新たな価値を追加したり、プロセスを変更するような場合でも、これまでやっていなかったことをやるわけですから、当然ながら負荷は増えます。

何か新しいことをやる、しかも限られた時間・人員の中でやるとなると、当然、今までやっていた「何か」が犠牲になるでしょう。

それを可能にするためには、今までやっていたことの中で、無駄なこと、効果が低いことはやめる必要があります。「効果が低い」というのは、相対的なもので、「大事な戦略を実行することに比べれば効果が低い」という意味です。本編では、出版社にとって最優先とも考えられる「新刊書籍の発行ペースを落とす」という、ある意味苦渋の決断をしています。

戦略をたてる際は、やる気に満ちていることが多いため、「あれもやろう」、「これもやろう」となりがちです。しかし、現実にできることは限られますので、あまり欲張ると、どれも中途半端になってしまい、「なんだかいろいろやろうとしたけど、結局何も変わらなかったなあ」ということになるでしょう。

そこで、戦略をたてるのであれば、先に、やめることを10%なり20%決めるという方法が有効です。

これは、Googleが「20% time」として導入して有名になった制度(勤務時間の20%を自分のプロジェクトにあてる)に通じる考え方ですが、やはり大きな成果を生み出すためには、目の前の業務に100%集中しているだけではダメだということだと思います。

余談ではありますが、Googleが導入するよりもずっと前の1948年から、ポストイットなどで有名な米3Mは、勤務時間の15%を自分自身のプロジェクトに使うように奨励していました。ポストイットの元となった開発も、この制度のもとで行われたと言われています。

戦略とは、「やることを選択しそれに集中すること」であり、それはすなわち、「やらないこと、やめること」とセットで考える必要があります。戦略を策定、実行する際には、これまでやってきたことを一部やめるという、苦渋の決断を伴う場合が多いと言えます。