業績評価・能力評価・情意評価のどれが重要?
中小企業の管理部長さんから、人事評価制度に関してご質問をいただきました。
当社は従業員約40名の会社ですが、現在、人事評価制度を構築中です。書籍やインターネット上の情報を見ると、人事評価制度は業績評価・能力評価・情意評価から構成されるという論説が多いようですが、これらは全て盛り込む必要があるのでしょうか? また、どれが最も重要なのでしょうか。
まずは業績評価に注目したい
当社が提唱する「中小企業向け シンプルな人事評価制度」の中核となる考え方は、戦略指標値と先行指標値を改善することであり、これは、業績評価・能力評価・情意評価に分類するのであれば業績評価に含まれる内容と言えます。
一方、能力評価・情意評価とは、以下のようなものです。
分類 | 項目 | 内容 |
業績評価 | 業績目標達成度 | 業績目標の達成度 |
能力評価 | 計画力 | 適切な業務遂行計画を立案できたか |
実行力 | 着実な業務実行ができたか | |
商品知識 | 自社商品に関して正しく理解していたか | |
コミュニケーション力 | 顧客や同僚と円滑なコミュニケーションがとれたか | |
交渉力 | 顧客と的確な交渉を行うことができたか | |
スケジュール管理 | タイムマネジメントを行い計画的に業務遂行できたか | |
正確性 | 業務を正確に遂行することができたか | |
情意評価 | 規律性 | ルールに則った行動ができたか |
協調性 | 周囲とのコミュニケーションを欠かさず、円滑な部署運営に貢献したか | |
積極性 | 業務に対して積極的に取り組んだか | |
責任感 | 与えられた仕事は最後まで責任を持って遂行したか |
能力評価に関して、もちろんさまざまな能力を持っていれば、業績をあげやすくなるとは思いますが、いくら能力が高くてもあまり業績をあげてくれない社員を評価してもしょうがありません。
情意評価に関しても、いくらルールに忠実で、協調性や積極性があったとしても、結果として業績をあげてくれない社員を評価してもしょうがありません。
中小企業の場合、なにはともあれ、業績をあげて売上を確保しないことには、会社の存続自体が危ぶまれますので、まずは業績が大事であり、業績評価を重視するのは自然な流れだと考えます。
特に情意評価に関しては、以下の理由から、当社ではお勧めしておらず、業績をしっかりと評価すれば、情意評価はしなくてもよい(しないほうがよい)と考えています。
・定量的に判定することが非常に困難(たとえば、積極的に取り組んだとはどういう状態を指すのか、判定が困難)
・一般的に、業績をあげるためには周囲との協調性や責任感は必要であり、情意評価が低くなるような行動をとる人は業績もあがらないことが多い
ただし、情意評価をしないと、「業績だけあげればよいんでしょ」ということで挨拶もしなかったり職場の雰囲気を悪くする人が出るかもしれないと、どうしても不安な場合は、望ましくない行動のチェックリストを作っておき、それに当てはまる場合はマイナス評価(できて当たり前なのでプラス評価はしない)とするような運用も考えられます。詳しくはこちらの記事をご参照ください。
評価項目は思い切って最小限に抑えよう ~最小限の評価項目+NGリストでコスパのよい人事評価制度を作ろう~
能力評価は重要
情意評価はしないほうがよいですが、能力評価はしたほうがよいです。
なかには能力があるのにそれを発揮してくれないという社員もいるかもしれませんが、一般的には、業務を遂行する能力があってこそ、業績をあげることができると考えられます。
・能力はあるけれども、たまたま今期は客先の都合によって大きな案件がキャンセルとなり、業績はあげられなかった
・能力は少し劣っているけれども、今期は幸運もあり大きな業績をあげた
といったこともありえますが、能力が高いほうが業績をあげる確率は高くなると考えられるため、会社としては社員の能力向上をサポートする必要があるでしょう。
また、能力評価は、役職へ登用するかどうかの判断材料にしやすい面があります。
たとえば、管理職になるためには、○○ができる(能力がある)ことが前提といった考え方です。
従業員数が50名以下程度の会社であれば、管理職は存在したとしても、管理職自身も実務を行うプレイングマネージャーであるケースも多いでしょう。
そのような組織であれば、業績評価だけでも、うまく会社は回っていく可能性があります。
従業員数が50名を超え、専任の管理職がいるなど、組織的に動いたほうがより大きな成果を出せるような企業であれば、能力評価にも力を入れていきたいところです。
ただ、能力を評価(判定)することは、それほど容易ではありません。
業績が顕在化したものだとすれば、能力は潜在的なものだからです。
能力を評価(判定)するためには、社外の資格試験・検定などを用いたり、上司と部下が役職に求められるスキルのリストなどを見ながら認識を合わせるような方法がよくとられます。
組織体制が整ってくれば、スキルのリストをもとに、社内の資格試験をつくりあげることも考えられます。
能力を評価(判定)するタイミングとしては、業績評価のタイミングと同じ程度がよいかと思いますが、業績評価の度に、資格試験を受けてもらうのは負担が大きければ、業績評価は半年に1回・能力評価は年に1回といった運用も考えられます。
また、業績評価の結果は、給与・賞与に直結させることが有用ですが、能力評価の結果だけで昇格(降格)には結び付けないほうが無難です。
そもそも、役職というものは、組織構成上の都合から設定されるべきものなので、能力が高まったので、すぐに管理職に昇格させるというのは得策ではありません。 ポストの空き具合なども見ながら総合的に判断し、その際の一つの材料として能力評価の結果を用いるというのが賢明だと思います。
Answer: まずは業績評価。余力があれば能力評価を加えよう。
冒頭の質問に対する回答としては、
- まずは業績評価に注力するのがよい
- 余力があったり、従業員数が増えるような場合は能力評価も併用するとよい
- 情意評価はしないほうがよい
となります。