営業のパイプライン(ファネル)の複数箇所に問題がある場合、先行指標はどう設定する?
「パイプライン(ファネル)でボトルネックとなっている箇所を、先行指標に結びつける方法がある」という記事に関連して、中小企業の営業部長さんからご質問をいただきました。
当社は社員が60名ほどで、うち約20名が営業部員です。営業部員の活動を、パイプラインを使って管理しています。
戦略ノートで、「パイプラインのボトルネックになっているところを先行指標として、そこを改善していく」という記事を読みました。
その考えは理解できるのですが、当社の場合、パイプラインのここが明確にダメというわけではなく、改善が必要と思われる段階が複数あるのですが、そのようなときはどうすればよいでしょうか。
ユアスト 江村さん
今回は、社長ではなく、営業部長さんからのご質問ですね。
経営戦略や人事評価制度は、社長の専売特許というわけではなく、各部門のトップの方や、現場の方にとっても非常に強力なツールになりますので、営業部長さんがこのようなことを考えてくれるというのは、当社にとってはとてもうれしいことになります。
ボトルネックを順番につぶしていく作戦
まず考えられるのは、改善が必要と思われる段階のうち、最も問題と言えそうな段階を一つ決め、まずはそこを先行指標にして改善を図り、その段階でパイプラインがある程度円滑に流れるようになってきたら、その次に問題となりそうな段階をつぶしていくという方法です。
この会社のパイプラインが上図のような構造であったとします。
今期は、1番のボトルネックと言えそうな「テレアポ⇒商談」段階を改善するために、テレアポのスクリプト(営業トークの台本)を見直してみることとし、先行指標は「商談数」とします。
そして、例えば、半年間、実践することで、ある程度、「テレアポ⇒商談」段階がスムーズに流れるようになってきたら、その次の半年間は、次に問題がありそうな「商談⇒提案」段階に着目し、先行指標は「提案数」などに切り替えるといったやり方です。
先行指標は、1回決めたらずっと変えてはいけないというものではありません。
その時の自社の状況や、顧客のニーズ、競合による新サービスの投入などに応じて、タイムリーに変えていって構いません。
もっとも、あまり頻繁に(たとえば、毎月など)変えすぎるのは問題です。
当社が提唱する「中小企業向け シンプルな人事評価制度」では、スタッフは戦略指標や先行指標の値をどれだけ改善したかで評価を受けることになります。評価される行動がコロコロ変わってしまっては、スタッフは混乱してしまいますので、少なくとも、一つの評価期間中(3ヵ月もしくは半年程度)は変えないことが望ましいと言えます。
パイプライン全体を太くしていく作戦
商談が最終段階に入りもう少しで受注できそうという案件を、無事受注に導くこと(クロージングと呼んでいる会社も多いでしょう)は、当然ながら大事ですね。
一方で、将来の受注を目指して、見込客を新たに発掘することも、これまた大事です。
パイプラインが5段階で構成されていたとして、5つの段階全てをよくして、より多くの案件が流れるようにしたいという会社もあるでしょう。
次図のパイプラインを例にとって考えましょう。
見込顧客100件のうち、電話がつながったのが80件、面談して話を聞いてもよいよと言ってくれたのが15件、具体的な提案を聞いてくれたのが8件、見積を検討してくれたのが6件、そして、最終的に受注に至ったのは3件だったというパイプラインです。
最終的に受注することは、当然大きな成果ですが、受注に至った案件もさかのぼれば80件電話で話したうちの1件だったわけで、そこでテレアポをしていなければ受注することもありませんでした。ですので、テレアポも評価されるべき活動です。
では、1件テレアポすることと、1件受注することの成果の重みはどうでしょうか?
80件のテレアポで3件くらい受注するのであれば、80 / 3 ≒ 27件テレアポすることが1件受注することと同じくらいの価値があると考えてもおかしくありません(もちろんこの数字は、会社によって変わります)。
そこで、「営業活動ポイント」のような指標をつくり、1件受注すると80ポイントの価値のある仕事をしたと考えます。3件受注すると240ポイントです。
一方、3件受注するために必要なテレアポは80件でした。テレアポを80件することと、3件受注することが同程度の価値と考えると、1件テレアポをすることは3ポイントの価値のある仕事になります。
受注段階では3件×80ポイント=240ポイント、テレアポ段階では80件×3ポイント=240ポイントとなりますので、段階としてはどちらも240ポイントの価値がある仕事と言えます。
同じように、その他の段階も240ポイントの価値がある(大事な)仕事です。パイプラインにおける各段階の数字を元に考えると、
・商談段階:15件で240ポイントなので1件あたりは240 / 15 = 16ポイント
・提案段階:8件で240ポイントなので1件あたりは240 / 8 = 30ポイント
・見積段階:6件で240ポイントなので1件あたりは240 / 6 = 40ポイント
と定量化できます。
つまり、各段階の仕事1つあたりの価値(配点)を設定するわけです。
当然、初期段階(テレアポなど)では件数が多いため、1件あたりの価値(配点)は低く、最終段階(受注など)では件数が少ないため、1件あたりの価値(配点)は高くなります。
テレアポ1件と受注1件を比較すれば、当然受注1件の方が大きな仕事でしょうから、感覚的にもそれほどおかしくないように思います。
このケースでは、営業活動全体としての配点は240ポイント×5=1,200ポイントとなります。
全体の配点を決め、パイプラインの各段階における活動1件に細かく配点することによって、最終的な成果(たとえば受注)だけでなくプロセスにおけるスタッフのがんばりを可視化・定量化することが可能になります。
パイプラインの考え方が適用できる業務において先行指標を設定する際には、ここでご説明した内容が役に立つ場合も多いと思います。
なお、本ケースにおける全体の配点が1,200点というやや中途半端な点数であることが気になるという方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、例えば1,000点などのほうがわかりやすいかもしれませんが、合計点を1,000点にしようとすると、無理やり段階数を変えたり、パイプラインの数字をいじったりすることになって、かえってわかりにくさが増す恐れがありますので、あまりこだわらないほうがよいかと思います。
また、本ケースでは、たまたま各段階の配点が切りの良い(割り切れる)数字になりましたが、パイプラインの数値によっては割り切れない場合もあります。
そのような場合は、小数点を用いると非常にわかりにくくなりますので、基本的に整数で考えた方がよいと思います。
たとえば、本ケースのパイプラインの提案のところが8件でなく7件だったとしたら、その段階の配点は1件あたり240 / 7 = 34.2857・・・点となってしまいます。これではさすがに扱いにくいので、一案としては1件あたりの配点を35点などと丸め、段階の配点は35×7=245点とします。その結果、パイプライン全体の配点は5点増えて1,205点と、さらに切りが悪くなってしまいますが、そこは我慢して受け入れていただければ実務上大きな問題にはならないかと考えています。
Answer: ボトルネックを順番につぶしていく作戦と、プロセスも評価できる指標を新たに設定する作戦が有力。
冒頭の質問に対する回答としては、
- 「まずは最大のボトルネック箇所を先行指標に採用し、ある程度目途がたったら次のボトルネック箇所に移行する」方法が考えられる。
- 「パイプラインの各段階における活動に配点をつけた指標を作ることで、パイプライン全体を太くしていく」方法も考えられる。
となります。