売上ではない「戦略指標」を探そう
目次
「中小企業向け シンプルな人事評価制度」の作成手順は、次のとおりです。
- 【手順1】売上ではない、会社の戦略として全社一丸となって追い求める「戦略指標」を探す
- 【手順2】会社全体の戦略指標値を改善するために各部門が貢献できる「先行指標」を探す
- 【手順3】「戦略指標」・「先行指標」の値を改善させるべく日常業務を行う
- 【手順4】「戦略指標」・「先行指標」の値をどれくらい改善したかで評価する
ここでは、手順1に関して、さらに突っ込んで考えていきます。
売上ではない指標
「中小企業向け シンプルな人事評価制度」の第一歩は、会社の戦略を端的に表現した戦略指標(当社の命名です)を見つけることです。
会社に関する指標と言うと、売上や利益といったものが思い浮かぶかもしれませんが、ここでは、売上や利益など最終的な指標の一歩(もしくは)二歩前くらいにある指標を考えます。
欧米発祥の考え方では、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)と呼ばれる指標を用いることが多いですが、ほぼそれと同じものと考えていただいて構いません。
前記事で例として取り上げた体操教室では「全国大会出場者数」を戦略指標として取り上げていました。
このほか会社によっては、「年間5回以上来店してくれているリピーター数(ケーキ店)」、「学習コースを修了した人の数(eラーニング事業者)」、「内定をもらえた人の数(職業紹介事業者)」なども戦略指標の候補になります。
これらの戦略指標の値が改善することで、おそらく、最終的に目指す売上や利益も増えるであろうという考え方が基本になります。
そもそも、戦略はざっくり言うと「自社の商品・サービスをいかに買ってもらうか」、つまり「どのように売上をあげるか」と言えます。
売上をあげるための具体的な方策が戦略なので、戦略指標は売上ではなく、もう少し具体的なものになるはずです。
戦略指標の条件
戦略指標には、次のような性質が求められます。
- 指標値を改善させようとするとおのずと戦略が実施されること
- 社内の各部門が共通で使えること
- 計測可能であること(できれば計測しやすいこと)
それぞれの条件ついて、若干補足します。
指標値を改善させようとするとおのずと戦略が実施されること
前記事で例として取り上げた体操教室の戦略は、「オリンピックにも出場するような知名度のある選手を輩出することで、教室の評判を高めて、売上につなげよう」というものでした。
この戦略に沿った形で、「全国大会出場者数」を戦略指標としていました。
仮にこの体操教室の戦略指標が、「新規会員勧誘数」だとしたら、戦略とは少しずれが出てきてしまいます。
もちろん、たくさん勧誘して、新規会員が増えれば、その中から知名度の高い選手が生まれてくる可能性は多少高まりますが、戦略のポイントを抽出した指標としては前述の「全国大会出場者数」のほうが適切だと考えられます。
社内の各部門が共通で使えること
次に重要なことは、多かれ少なかれ社内の各部門に関係があって、共通で使えることです。
営業部門だけに関係する指標(勧誘のためのテレアポ件数)、生産部門だけに関係する指標(不良率)などは戦略指標としては適していません。
また、いわゆるKPIに関しては、「数をあまり増やさず3〜5個程度にとどめましょう」しましょうという論調が多いですが、戦略指標は基本的に1つだけ設定します。
計測可能であること(できれば計測しやすいこと)
戦略指標の値は、日常業務や人事評価を行う際にチェックする必要がありますので、当然、計測可能でなければなりません。
企業では決算書を少なくとも年1回作り、それをもとに法人税等を申告納税しますが、納税は決算日から2ヵ月以内に済ませなくてはいけません。逆に言えば、決算日から2ヵ月間は猶予があり、計算に2ヵ月弱かかってもよいわけです。
それくらい、決算処理は大変な作業と言えるかもしれません。 しかし、戦略指標の値は、日常業務でも頻繁に確認することが前提なので、集計に2ヵ月もかかるような指標では困ります。あまり煩雑な集計処理をしなくても計測できるような指標にすることが、人事評価制度をうまく運用するためには重要です。
当社がおすすめする戦略指標のパターン
戦略指標の条件を見てきましたが、具体的にはどのように設定すればよいのでしょうか。
ここで、売上があがる構造を再考してみます。売上を継続的にあげるためには、自社の商品やサービスに満足していただくことが必要でしょう。これによって、リピートしてもらったり口コミなどでほかの人にすすめてもらえる場合もあるでしょう。
お客さまに満足してもらう方法としては、「高品質の商品・サービスを提供する」、「低価格にする」、「即日配送する」などいろいろな方法が考えられますが、「うちの会社はこの方法で行こう」と決めた具体的な方針が戦略です。
実際の時間軸に沿って整理しなおすと、
・戦略に従った行動をとる
・戦略的に提供する価値をお客さまに享受していただき満足していただく
・リピートや口コミなどによって継続的な売上があがる
という流れになります。そして、価値を享受し満足していただいたお客さまが増えれば増えるほど、売上も向上することが期待されます。
たとえば、資格学校を例にとると、「試験に合格する」ということが価値であり、その価値を享受した方(合格した方)の総数を戦略指標とします。
投信会社の場合であれば、「5年間で資産を10%増やす」ということを基準となる価値として、それ以上の運用成績をあげたお客さまの数を指標にすることができそうです。
整理すると、
戦略指標の基本パターン
= 基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の数
= お客さま総数 × 基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の割合(基準ラインクリア率)
となります。
ユアスト 江村さん
みなさんの会社にはどのような戦略指標がふさわしいか、検討されてはいかがでしょうか。
まとめ
- 戦略指標の条件は、次のとおり。
①指標値を改善させようとするとおのずと戦略が実施されること
②社内の各部門が共通で使えること
③計測可能であること(できれば計測しやすいこと) - 戦略指標の基本パターン
= 基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の数
= お客さま総数 × 基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の割合(基準ラインクリア率)