戦略指標と日常業務をつなぐ「先行指標」を探そう
「中小企業向け シンプルな人事評価制度」の作成手順は、次のとおりです。
- 【手順1】売上ではない、会社の戦略として全社一丸となって追い求める「戦略指標」を探す
- 【手順2】会社全体の戦略指標値を改善するために各部門が貢献できる「先行指標」を探す
- 【手順3】「戦略指標」・「先行指標」の値を改善させるべく日常業務を行う
- 【手順4】「戦略指標」・「先行指標」の値をどれくらい改善したかで評価する
手順1で戦略指標が見つかったら、手順2に進みます。
戦略指標と日常業務をつなぐ必要性
手順1で考えた戦略指標は、会社の戦略を端的に表現したもので、当社がおすすめする戦略指標の基本パターンは、
基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の数
= お客さま総数 × 基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の割合(基準ラインクリア率)
というものでした。
戦略指標は全社一丸となって進む方向を示す指標であるため、現場の各部門に所属するスタッフは、この戦略指標の値を改善すべく、日々の業務に取り組むことになります。
しかし、現場には営業、商品企画、開発、生産、バックオフィスなど、様々な部門があり、スタッフの仕事もまちまちなので、どのように戦略指標の改善に貢献できるかは、人によって違ってきます。
当社がおすすめする戦略指標の基本パターンでは、「お客さま総数」という営業部門が主に追い求める数値と、「基準ラインクリア率」という開発、生産、提供部門が主に追い求める数値の掛け算となっているため、各部門がそれぞれの立場から指標値改善を目指すことが可能ではあるものの、仕事内容によっては、日々の業務の成果が戦略指標に結びつくのかどうか実感しづらいといったケースも想定されます。 そこで、現場の各部門の日常業務と戦略指標をつなげるために、もう一つ、指標を導入します。
先行指標の設定
戦略指標を日常業務につなげるために、各部門で次のような条件を満たす「先行指標」を設定します。ここで、「先行」と言っているのは、戦略指標の値が改善されるより先に、こちらの指標の値が改善されるような位置づけにある指標という意味です。
- その指標値が改善されれば、戦略指標の値も改善されると期待される指標。
- 各部門の現場のメンバーが、日々の業務で直接、値を改善できる指標。
- 毎週、値が動く指標。
他記事でも取り上げた体操教室での事例に沿って、それぞれの条件について見ていきます。
本教室を運営する会社は、オリンピックにも出場するような実力ある選手を輩出することで、教室の評判を高めて、売上につなげようと考え、「全国大会出場者数」を戦略指標に採用しました。
この会社には、営業部門とインストラクター部門があり、各部門で、戦略指標の値を改善するために、自分たちは何をできるかを検討しました。
営業部門においては、自分たちは「会員数」を増やすことで、戦略指標値の改善に貢献できるということで意見がまとまりました。会員数という母数が増えれば、その中で、全国大会に出場できる選手も増える(だろう)という考えに基づき、営業部門は「会員数」という先行指標を設定しました。
一方、インストラクター部門では、過去に全国大会に出場できた子ども、出場できなかった子どもに関して分析したところ、有望と思われた子どもがケガによってパフォーマンスが下がったり、意欲を失ったりして、全国大会に出場できなかったというケースが多いことがわかりました。そこで、会員のケガを減らすことが全国大会出場者数の増加につながると考え、「ケガで2週間以上練習ができなかった子どもの割合」を先行指標として抽出しました。
営業部門が会員数(本教室は本格的に体操に取り組もうという人向けの教室であることを理解した会員)を増やせば(先行指標が改善すれば)、全国大会に出場できる会員が現れる可能性は高まるため、戦略指標値の改善が期待できると言えるでしょう。
一方、「ケガで2週間以上練習ができなかった子どもの割合」が下がれば(先行指標が改善)、有望な会員が順調に成長し、全国大会に出場できる可能性が高まると期待されます。
このように、両部門が設定した先行指標は「①その指標値が改善されれば、戦略指標値も改善されると期待される指標。」という条件を満たしていると言えそうです。
また、営業部門のメンバーは、例えばチラシを配布したり、保育園・幼稚園・学校などにアプローチしたり、体験会を開催したり、日々の業務を通じて、先行指標である「会員数」を増やすことが可能です。
インストラクター部門としては、ケガをしにくいストレッチ方法を取り入れたり、ケガをしにくい身体をつくるための食事面のサポートを強化するなど、こちらも日々の業務を通じて、先行指標である「ケガで2週間以上練習ができなかった子どもの割合」を下げるための努力をすることが可能です。
このように、両部門が設定した先行指標は「②各部門の現場のメンバーが、日々の業務で直接、値を改善できる指標。」という条件も満たしていると言えそうです。
さて、戦略指標、先行指標は、設定することがゴールではなく、それらの値を改善するために日々の業務を行うことが目的です。
手順3にて詳しくご説明しますが、毎週、会議を行い、指標値がどうなったのかを追跡し、指標値をさらに改善するためには、どのような行動をとるべきか考えながら、日々の業務を進めていきます。指標が、日々の業務を進めるにあたってのよりどころになるイメージです。
そうすると、値がなかなか変化しないような指標だと、日々の業務のよりどころになりません。そこで、「③毎週、値が動く指標。」という条件が先行指標には求められることになります。
戦略指標も、四半期に少なくとも1回以上は値が動くものが望ましいですが、先行指標に関しては、それ以上に短い期間で変化する指標であることが望まれます。
事例中、営業部門の先行指標である「会員数」は日々の入退会状況、インストラクター部門の先行指標である「ケガで2週間以上練習ができなかった子どもの割合」は会員の毎日の状況によって変化するので、「③毎週、値が動く指標。」という条件もクリアしていると考えられます。
ユアスト 江村さん
先行指標の案が見つかったら、3つの条件を満たしているか、確認してみましょう。
先行指標は誰が設定するか
戦略指標は、会社の戦略を端的に表現したものであり、基本的に経営層が設定するべきです。
これに対して、先行指標は、現場における日々の業務に直結するものであるため、現場(例えば、各部門など)で設定することが望ましいと考えます。
現場で日々忙しく仕事をしているスタッフにとって、上(経営層)から降りてきた目標(指標)は、自分事として捉えにくく、ともすれば忘れてしまうといったこともあるかもしれません。これに対して、自分たちで考えて設定した指標であれば、言った手前なんとか改善しようという気持ちが働くのではないでしょうか。
そういった点でも、先行指標は各部門が案を考え、経営層が承認するという流れがよいでしょう。
ただし、戦略指標・先行指標に関する理解が十分でない場合に起こりがちなことですが、戦略指標の改善につながらない先行指標や、戦略指標改善への貢献が小さい先行指標が現場からあがってくることも想定されます。
そのような場合は、「考え直してください」という意味で、経営層が現場部門に対して拒否権を発動することができるようにしておきます。
とはいっても、経営層から「この先行指標にしなさい」ということは避け、あくまで現場に再考を促すことが大切です。
まとめ
- 戦略指標は会社の戦略を端的に表現したもので、全てのスタッフが、この戦略指標の値を改善すべく、日々の業務に取り組むものだが、中には、日々の業務の成果が戦略指標に結びつくのかどうか実感しづらいケースも想定される。
- それをカバーし、日常業務と戦略指標をつなげるために、各部門で次のような先行指標を設定する。
①その指標値が改善されれば、戦略指標値も改善されると期待される指標。
②各部門の現場のメンバーが、日々の業務で直接、値を改善できる指標。
③毎週、値が動く指標。 - 戦略指標は経営層が考えるが、先行指標は現場(各部門)が考える。ただし、経営層は、各部門の先行指標が、会社全体の戦略指標に結びつかないなどの場合に、拒否権を発動することができる。(この指標にしろと強制はできない)