進捗確認会議を必ず実施しよう
「中小企業向け シンプルな人事評価制度」の作成手順は、次のとおりです。
- 【手順1】売上ではない、会社の戦略として全社一丸となって追い求める「戦略指標」を探す
- 【手順2】会社全体の戦略指標値を改善するために各部門が貢献できる「先行指標」を探す
- 【手順3】「戦略指標」・「先行指標」の値を改善させるべく日常業務を行う
- 【手順4】「戦略指標」・「先行指標」の値をどれくらい改善したかで評価する
ここまで手順1で戦略指標、手順2で先行指標を抽出してきました。
「これらが見つかったら、あとは日々の業務の中で実行するだけです。」と言いたいところですが、そう言ってしまうと、おそらく先行指標も、戦略指標も改善されないでしょう。
ここでは、どのように実行していけばよいかについて考えていきます。
実行するための仕組み(進捗確認会議)を導入する
十分に検討し戦略指標、先行指標を抽出したのであれば、「これで一安心、あとは実行するだけだ。」と思いがちですが、まだ安心はできません。
実行するための仕組みがないと、日々の忙しさの中で、戦略指標値、先行指標値の改善というミッションは優先度を失い、いつの間にか忘れ去られてしまうことになりがちです。
そこで、実行するための仕組みとして、「進捗確認会議」が必要になってきます。
「なんだ、そんな当たり前のことか。進捗確認の会議は今でもやっているよ。」という声が聞こえてきそうですが、今しばらくお付き合いください。
当社の考える進捗確認会議は以下のようなものです。
- 基本的に、部署単位で実施する。
- 必ず、週に1回は実施する。
- 議題は「①戦略指標値、先行指標値の確認」、「②前の週に、先行指標値を改善するためにやると決めた活動の進捗状況報告」、「③先行指標値を改善するために今週やることの表明」のみとする。
- 20分~30分程度以内に終わらせる。
まず、進捗確認会議は定期的に行うことが必要です。多くの職場では1週間が基本的な単位になっているでしょうから、進捗確認会議も毎週1回行うのが自然です。月曜から金曜までが勤務日の職場であれば、月曜(月曜が祝日になっている場合は翌日など)の午前中に開催することをお勧めします。
次に会議の中身ですが、戦略指標値、先行指標値とその改善に関わることのみを議題とします。具体的には、上述のとおり、
- 戦略指標値、先行指標値の確認
- 前の週に、先行指標値を改善するためにやると決めた活動の進捗状況報告
- 先行指標値を改善するために今週やることの表明
だけです。
社長の訓話、新たに入社する人の挨拶、各種事務連絡などは、一切議題としてはとりあげません(もちろん、「これらをやめろ」というわけではありません。やるのであれば、進捗確認会議とは別の会議でやっていただきたいという意味です。)。
そして、議題は限定されていますので、組織の人数にもよりますが、20分~30分程度で終わらせるように努力します。
進捗確認会議で話す内容
進捗確認会議では、戦略指標値、先行指標値がどうなっているか、期待したとおりに改善しているのか、改善していないとすれば原因は何で、どういう対策が考えられるかといったことを確認していきます。
体操教室のインストラクター部門を例にとって考えます。
この体操教室の戦略指標は「全国大会出場者数」、インストラクター部門の先行指標は「ケガで2週間以上練習ができなかった子どもの割合」です。
過去の経験で、有望だった選手がケガによってパフォーマンスが低下したり、意欲を失ってしまうことが多かったため、選手がケガをしないことが、全国大会出場者数という戦略指標値の改善に重要であると考えて、この先行指標を抽出しました。
ある月曜日のインストラクター部門の会議の例です。
まず部門のリーダーが、「①戦略指標値、先行指標値の確認」を行います。
部門リーダー:今年度、ここまでの全国大会出場者数は4人です。先行指標である「ケガで2週間以上練習ができなかった子どもの割合」は今のところ0%です。
続いて、部門のスタッフが「②前の週に、先行指標値を改善するためにやると表明した活動の進捗状況報告」「③先行指標値を改善するために今週やることの表明」を行います。基本的に、具体的な活動内容はスタッフ自身が考え、先行指標値の改善につながりにくいと考えられる場合のみ、上司が修正を求めるような運用が効果的です。
スタッフAさん:先週の戦略進捗会議では、先行指標値を改善するために「練習前のストレッチの様子をきちんと観察し、全員が15分以上かけて的確に実施しているかチェックする」ことを約束しました。これは、予定どおり実施しましたし、今週も継続的に行います。
しかし、週末の練習で、Yさんが着地の際に足を少しひねってしまいました。幸い、大きな痛みはないということですが、今週は病院を受診してもらい、その結果を見て、練習メニューを組み立てていきます。
スタッフBさん:私もAさん同様に「練習前のストレッチの様子をきちんと観察し、全員が15分以上かけて的確に実施しているかチェックする」ことを約束しました。私の担当日については、確実に実施しました。今週も継続的に行います。
また、子どもたちに依頼していた、食事の実態のアンケート結果が戻ってきたので、今週は栄養士さんとともにそれを分析して、改善すべき点を抽出します。
このようにして、各スタッフが先週約束したことの進捗状況、それを踏まえて今週何をするかを表明していきます。そして、次図のように、その後の1週間で、約束したことを実行していくことになります。
進捗確認会議が有効な理由
進捗確認会議が有効な理由は、まず、自分が何をすべきかを認識する(思い出す)機会になるということです。
よくある人事評価制度では、評価期間の期初に各自が目標を設定しますが、期中はすっかりそれを忘れていて、期末になって慌てて評価シートを見返して、自分の目標はこれだったのかと思い出すことが往々にしてあります。
評価期間は長ければ一年か半年、もう少し短くても四半期(3か月)というケースが多いでしょう。となると、短い場合でも、3か月間は自分が何をすべきかを忘れてしまっていることになります。
忘れていることが実現できるはずもありませんので、多くの場合、目標は達成されずに形骸化してしまうでしょう。
これに対して、進捗確認会議では、毎週、自分の目標を認識した上で、やるべきことを表明し、1週間後には実施状況を報告する必要がありますので、自分がやるべきことを忘れている暇はありません。
また、進捗確認会議では部署の全員が、戦略指標値・先行指標値を改善するためにこの1週間でやったことを報告します。
その場で、「先週は〇〇をやると約束しましたが、他の仕事が忙しくてできませんでした。」と言うのは、自分の信頼・信用に関わります。
そのようなことが何週間も続けば、部署のメンバーからの信頼は全くなくなってしまうでしょう。
ましてや、やるべき行動を上司から指示されたのではなく、自分自身でこれをやりますと表明したわけですので、普通の人であれば、なんとか実行するように努力する(例えば、時間をやりくりするなど)でしょう。
さらに、あるメンバーが、やると表明したけれども、なんらかの障壁のためにうまく実行できずに困っているような場合、進捗確認会議に参加している上司や他メンバーから、的確な助言をもらうことも期待できます。
このように、進捗確認会議を毎週確実に実施することで、メンバーが戦略指標値・先行指標値改善に向けた行動をとりやすくなります。
ユアスト 江村さん
いくらよい戦略指標・先行指標が見つかっても、進捗確認会議を行わなければ、多くの場合、戦略指標・先行指標の値は改善しません。まずは1か月程度の試行でも構いませんので、ぜひみなさんの職場でもやってみてください。
まとめ
- 戦略指標、先行指標を設定しただけでは不十分で、指標値改善を進めるためには、毎週「進捗確認会議」を行い、各自がやるべきことを実行していく必要がある。
- 進捗確認会議の議題は以下のみとする。
①戦略指標値、先行指標値の確認
②前の週に、先行指標値を改善するためにやると約束した活動の進捗状況報告
③先行指標値を改善するために今週やることの約束 - 毎週、進捗確認会議を行うことで、自分がやるべきことを忘れなくなる。また、仲間に対して約束した手前、なんとしてでも実行しようというモチベーションにつながる。